「週刊朝日」

志位和夫日本共産党宣言!」
週刊朝日』が特集
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik07/2008-03-25/2008032502_05_0.html

日本共産党宣言 志位和夫共産党委員長 資本主義を叱る!

 円高、株安、原油高が進み、経済の先行きは不透明だ。
19世紀にマルクスエンゲルスは『共産党宣言で」『ヨーロッパに共産主義という妖怪が出る」と書いたが、今や国際的な投機マネーに引きずられた『超資本主義という妖怪」が世界を脅かしている。
 共産主義者の目に今の社会はどう映るのか。志位和夫共産党委員長(53)に聞いた。
しい・かずお 1954年、千葉県四街道市生まれ。 東大工学部物理工学科卒。大学1年のときに共産党に入党し、卒業後は専従活動家に。90年に35歳の若さで党書記局長に選出。93年、衆院議員に初当選し、現在5期目。2000年、委員長に就任した。

◆志位さんが2月に衆院予算委員会で派遣労働問題を追及した映像がインターネットの動画投稿サイトで大きな反響を呼び、「ユーチューブ」などでの視聴回数は12万件を超えました。若者向け情報誌「R25」にもマルクスの紹介記事が載りました。共産主義が再評価され始めたんですか?

(志位)実はマルクスの人気は世界的に急上昇しているんです。05年にイギリスのBBCラジオが行った「世界のもっとも偉大な哲学者は」という投票では、1位がマルクス、2位がヒューム、3位がヴィトゲンシュタインでした。アメリカの雑誌「USニューズ・アンド・ワールド・リポート」で、「20世紀を形作った3人の知性」として取り上げられたのは、アインシュタインフロイトマルクスでした。

◆イギリスやアメリカという資本主義の本家本元で、なぜ評価されるようになったんですか?

(志位)資本主義の矛盾が世界的に深刻になっているからでしょう。貧富の差が地球的規模で拡大し、国境を越えた投機マネーが国民経済を破壊し、恐慌や不況を制御できない。地球環境の破壊も深刻です。「資本主義の枠組みでは、こうした問題を根本的に解決するのは難しい」という認識が広がり、資本主義の本質をとことん明らかにしたマルクスを再評価する動きにつながっているんだと思います。


◆ 日本もその流れの中にあるんですか?
 
(志位)日本はさらに特殊です。日本の資本主義は「ルールなき資本主義」です。
たとえば、日本の労働基準法では残業時間の上限が決まっていない。こんな国はヨーロッパにはありません。しかも、ここ10年来、わずかにあったルールまで破壊して、新自由主義市場原理主義が横行し、非人間的なむき出しの搾取が行われてきました。


◆日本の現状のどんなところがひどいんですか?

(志位)非正規雇用の労働者が全体の3分の1まで増え、若者や女性の半数は非正規雇用です。派遣労働者が321万人。その7割強が登録型派遣で、派遣会社に登録し、仕事があるときだけ雇用されるという、きわめて不安定な状態に置かれています。
 ヨーロッパにも派遣労働者はありますが、臨時・一時的な業務に限定され、正社員と同じ労働をすれば同じ待遇を受けられる均等待遇のルールがある。日本にはない。日雇い派遣で働く若者は、「アルバイトやパートとも違って、日雇い派遣の場合は、翌日は代わりの人を雇えばいいから本当にヘトヘトになるまで使われる」と言う。人間の使い捨てです。19世紀的な野蛮な資本主義が、新しい残酷さをもって復活しているんです。

◆それは資本主義の本質に根ざした問題ですか?

(志位)資本主義の本性は利潤第一主義であり、ひたすら多くの利潤を上げることが生産の唯一の目的です。資本による利潤追求の熱中は、労働者の絞り上げをいよいよひどくし、貧困化を進める。今の様々な問題の根本原因がそこにあるのは間違いありません。多くの若者が、明日の展望がまったく見えない奴隷のような労働を強いられている。結婚して家庭を持って子供を生むなど考えられない。そういう若者が何百万人という単位で生まれている。これを放置したら今後の日本社会は成り立ちません。


◆人が働く目的は何だと考えていますか?

(志位)労働を通じて自己実現し、自分の能力を豊かにしていく要素がなければ、人間らしい労働とは言えません。しかし現実には、労働者の給与は9年連続で減少し、年収200万円以下の給与所得者が1千万人を超えた。そういう人たちは生きるか死ぬかの瀬戸際で働いている。「格差社会」とよく言われますが、問題の本質は「貧困」なんです。


◆どうすれば”人間らしく”なりますか?

(志位)まずは資本主義の枠内で、人間らしい労働・経済のルールを作る。期限の定めの無い直接雇用、つまり正社員化を進める事がその土台です。派遣労働のような間接雇用は、雇用主と使用主が異なり、人をモノのように使い捨てにするいちばん悪い形態です。期限が限られた有期雇用も、不安定な労働になる。

◆今は正社員でも安泰ではありません。

(志位)非正規雇用への置き換えが進むと、正社員もいつそこに突き落とされるかわからない。それが脅しになって、正社員は際限の無い長時間労働に駆り立てられている。過労死や過労自殺がこれだけ出る社会は異常です。正社員にとっても「板子一枚下は地獄」で、国民全体がリストラの恐怖の上に暮らしています。


◆企業には雇用を維持する社会的責任があると?

(志位)もちろんです。しかし大企業の多くは目先の利益獲得に熱中し、中長期的な社会や経済への責任を負わなくなった。日本を代表する大企業が派遣労働者への置き換えを大量に進め、ものすごい利益を上げている。そうやって若者を使い捨てにしたら、日本の技術や知識は蓄積も発展もせず、中長期的に持続可能な社会ではなくなる。大企業もいずれは没落する。そのことをもっと自覚すべきです。  


ライブドア堀江貴文元社長や、村上ファンド村上世彰元代表らが時代の寵児になったころから、「競争で活力が生まれ、勝ち組が全体を引っ張る」という考え方や、「自己責任だから自由にやらせろ」という考え方が広まりました。

(志位)堀江氏らはそういうのかもしれません。でも、投機で荒稼ぎしたカネの原資は、人間としてのまともな生存条件さえ保障されていない人たちから搾り取ったカネです。そういう人の痛みがわからない人は経営者失格ですよ。


◆戦後の日本は修正資本主義を取り「世界でもっとも成功した『社会主義」と言われました。資本家は知恵を失ったんですか?

(志位)「社会主義」だったというのは見間違いですが、今の日本の財界は中長期の視野で先を見る知恵を失っています。目先の利益だけを追い求め、企業活動を無制限に自由化したら社会全体が不自由になる。大企業には社会的な規制が必要です。そうしてこそ国民の暮らしの自由が保障され社会も発展する。長い目で見れば企業にとっても利益なのです。でも、今の日本の財界には、そう考えるゆとりも見識もなくなった。投機マネーは少しでも利益率の良い会社に動くので、企業は横並びで、株主資本利益率をあげるためのリストラ競争をしている。日本を代表する大企業が外資の企業合併・買収(M&A)におびえ、買収を防ぐために社長が世界中をまわらなければいけない。「ルールなき資本主義」は本当に行き詰まったという感を強くします。

投機やM&Aは商売の邪道です


◆大規模な投機マネーが国際的に飛び交う事態は、マルクスの時代の資本主義とは違いますね。

(志位)マルクスは「資本論」で、「資本主義は株式会社を発展させるが、それは巨大なギャンブル制度を作り出す」と書いています。社会の『寄生虫一族」や『ペテンと詐欺』の体制が生まれるという厳しい表現を使っています。短期の利益を、最も極端な形で追い求めるのが投機マネーです。投機マネーはお金そのものを商品にし、通貨、株、債券の取引で、実体経済とはかけ離れたところで利益を上げようとする。これが今のマーケットを支配しているのです。  
アメリカのサブプライムローン問題でも、本来はアメリカ国内の住宅ローンの焦げ付き問題なのに、証券化されて世界中にバラまかれたために、世界経済が大混乱に陥っている。もっぱら投機や企業買収でもうけるというのは商売の邪道で、資本主義にとっても先のない末期症状です。でも、資本主義にとってはカネもうけが目的のすべて。お金が神様。だから、ここに行き着かざるを得ないんです。


◆人にとって幸せな生き方とはどのようなものだと考えていますか?

(志位)人間にはいろいろな発達の可能性があるのに、資本主義社会では、ごく一部の人しかそれを実現できない。長時間労働で自由な時間がない。雇用が不安定で生存条件が危うい人も少なくない。社会主義とは、生産手段を社会全体のものにすることです。そうなれば搾取がなくなり、労働時間が抜本的に短縮され、社会のすべての人の人間的発達を保障できるようになる。それが人類全体の財産になり、社会全体を豊かにしていく。



性善説なんですね。

(志位)善か悪かというより、マルクスには「人間は無限の発達の可能性をもった存在だ」という思想があると思います。


◆多くの人の心には、怠けたいとか、自分だけ得をしたいといった利己的な部分もあります。仮に生産を社会化しても、みんなが「誰かがやってくれる」と、あぐらをかいてしまったら仕組みは壊れませんか?

(志位)社会の発展に即して、人間の意識も変わってくるでしょう。人間は総体として見れば無限の可能性をもった存在です。モーツアルトが作曲し、ピカソが絵を描くのは苦役ではなく喜びだった。本当に自発的な意志に基づいて行われる労働は喜びになりえます。もともと人間は、労働を通じて猿から進化してきたんですから。

◆日本人の多くは、共産党というと旧ソ連、旧東欧をイメージします。旧東側諸国は、今はことごとく資本主義国家になりました。社会主義が資本主義に敗れるのは歴史の必然では?

(志位)旧ソ連社会は共産主義とも社会主義とも無縁の社会でした。旧ソ連には生産手段の国有化はあったが、生産者は生産の管理・運営から排除され、抑圧された。これは生産手段の社会化とは言えません。旧ソ連社会主義の国ではなかったんです。



◆世界最大の社会主義国の中国では、貧富の差の拡大や公害など資本主義的な問題が深刻化しています。

(志位)中国は「市場経済を通じて社会主義へ」という取り組みを進めていますが、その過程で矛盾も生じています。そこから目をそらさずに解決し、調和のある発展を図ろうという探求をしていると思います。


◆中国は社会主義国家ではないんですか?

(志位)政治上、経済上の未解決の問題を残しながらも、社会主義への方向性に立って努力しているととらえています。市場経済を活用して社会主義に進むという考え方は、普遍性と合理性をもっています。市場経済は経済の弾力的・効率的な運営を可能にする。うまく使えば経済発展のテコになる。「市場経済を通じて社会主義へ」という道は、日本共産党の綱領の路線です。


アメリカは旧ソ連崩壊後、一国で世界の覇権を握ってきました。しかし近年は欧州連合EU)や、ブラジル、ロシア、インド、中国など新興国・途上国の重みが増しています。

(志位)ごく最近まで主要国首脳会議参加国を中心とした先進資本主義国が、世界経済で圧倒的な力をもっていました。ところが、国際通貨基金IMF)が今年1月に出した「世界経済見通し」によると、世界全体の経済成長率は4.1%で、そのうち先進国は1.8%、新興国・途上国は6.9%。先進国が投機マネーにのめり込んでつまずく一方で、新興国や途上国は内需中心、実物経済中心で、比較的健全に発展している。いまや世界経済の成長の推進力となり、安定性をもたらしているのは新興国や途上国なんです。昨年10月にワシントンで開かれた世界銀行IMFの総会と関連会議では、24の途上国がサブプライムローン問題で揺れる先進国経済を厳しく批判し、IMFに「先進国経済のもろさに注目し、監視する」ことを求める声明を出した。世界経済の力関係は大きく変化しています。