安心安全

安心安全な暮らしを望まぬ人はいないと思ったりします。
政治家やエネルギー企業関係者に限らず、すべての人が安全性を積み重ねるための意志を貫いて欲しい。

http://www.nikkei.com/article/DGXNASFK0201M_S3A400C1000000/
極秘プランが告げる電力解体の先 2013/4/2 16:00

 政府は2日、電力システムの改革方針を閣議決定した。昨年までの民主党時代、それ以前の自民党時代からの宿題に取りかかろうとしているが、おおまかなシナリオは描かれていた。



政府内では、電力システム改革と東電再建策が同時並行で議論されてきたが……
 「その通り行くかは別にして、大まかな流れはそうなんじゃない」

 機密性を示す番号がふられた文書を見やると、仕方なさそうな顔で解説してくれた。エネルギー政策を担当する経済官庁の幹部が手にした文書には、発送電分離を含む電力システム改革などの考え方、予想されるスケジュールが書かれている。

 経済産業省内での議論や大臣説明に使うたたき台のメモだった。

 文書の作成日は2011年8月と9月。野田政権の発足に合わせてまとめられた。東京電力の福島第1原子力発電所事故から半年たち、電力システム改革が焦点になりつつあったころだ。当時の経産省資源エネルギー庁の次長をつとめていたのは、安倍晋三首相の今の秘書官、今井尚哉氏だった。

 その後、東電の実質国有化、発送電分離などの電力の競争政策づくりはほぼメモに記してある通りに進んできた。発送電分離については、発電や送配電など事業ごとにライセンスを与えるように電気事業法を改正、発電から送配電ネットワークまで一貫して保有する電力大手の姿を変える筋書きを描いている。

 発送電分離の目的は、電力大手から公共性の高い送配電ネットワークを切り離し、電力ビジネスの世界を「見える化」することにある。公平性を見えるかたちで保証すれば、新規参入者も加わって競争が促される、という前提にたつ。生活や企業活動に影響する電気料金を引き下げることが最終ゴールだ。ところが、その先があるという。

 2日に閣議決定されたシステム改革案のたたき台をつくった電力システム改革専門委員会のメンバーの1人は、エネルギー業界の近未来を予測している。「(沖縄電力を除く)電力9社が発送電分離をすれば、まず事業ごとの統合が始まる。その先には他の石油やガスを交えた大規模な再編が起きるだろう」

 産業界を見渡すと、鉄鋼など「重たい業種」でライバル同士が組むとき、まず事業提携、そして事業統合へと動き出すことが多い。合併や経営統合に踏み込むまでには時間がかかるが、機が熟せば、自然の結末に至る。

 そもそも電力9社の関係は全くの「水と油」というわけでもない。ほかの電力大手の供給エリアに入って電気を売ることは過去1件のみ。それだけではない。東電と東北電力が一部の火力発電所を共同出資で運営するなど各社の関係は密接だ。業界団体、電気事業連合会を通じて60年以上、ともにエネルギーや原発政策に関する政府などへの働きかけを続けている。

 さらに原発停止による電力大手の財務体質の衰えが続けば、今後の経営に外部からのフレッシュマネーも不可欠になるだろう。発送電分離が現実となり、電力再編が始まるなら、資金力があるエネルギー企業や商社、異業種が加わるはずだ。

 次元は違えど、再建中の東電は発電所の投資をまかなうために、他のエネルギー会社など外部資本と組むことにためらわなくなっている。きっかけは原発事故であり、昨夏の実質国有化である。


 東電は、システム改革案の閣議決定を控えた1日、会社を火力発電・送配電・小売りに分けた「カンパニー制」に移行。あたかも発送電分離の姿を先行して取り入れたかのようだ。ある東電OBは「我が社は実験場」と嘆く。ほかの電力大手は東電の改革を我がことのように眺めている。

 日本の電力市場は約15兆円。裏を返せば、それだけのコストを家庭と企業が払ってきた。電力会社は1990年代以降、条件をつけながらも電力自由化を受け入れてきたが、会社の姿が大きく変わる発送電分離だけは避け続けてきた。

 業界内には、かつて蜜月だった自民党政権への信頼からか、「参院選が終わるまでのがまん」という期待はあるが、原発事故後は自分たちのペースで駆け引きできなくなっている。

 現在の電力システムは終戦から間もないころにできている。東日本大震災では、機能不全に陥った。それを守り続けることだけが、戦後から70年近くがたった時代の電力会社の経営目標ではないだろう。安倍政権が決めたシステム改革案によると、発送電分離の目標は18〜20年がめど。それまで曲折はあっても、発送電分離に代わる抜本改革の対案を示せないままなら、この先はどこに向かっていくのだろうか。

 ちなみに、経産省で1年半前につくられた文書は、システム改革の先行例といっていい東電についてこう記している。

 「2012年6月 株主総会で増資決定→原子力損害賠償支援機構に第三者割当増資」

 「2013年夏 株主総会で東電分割(原子力部門(親)と発電、送電、小売子会社)」

 今後は原発事故の賠償や廃炉も含めた東電の経営問題が再び議論されてもおかしくない。当然、今夏は間に合わないにせよ、原発事故前は誰もが想定しなかった東電分割は起こりうる。それが、発送電分離の時代に突入した後の電力再編のスタートラインである。専門委員会の報告書や電気事業法の条文のように立派でもない、たった数枚のメモ文書が告げている。