読み聞かせ『いま、動物園がおもしろい』西山登志雄

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 あるとき、こういうことがあった。私たちが小獣類と呼ぶ動物がいる。肉食獣が多いが、これらを小さなケージに入れて飼っていると、ケージを一生懸命になって汚す。臭い。新人の飼育係はきれいにしようと思う。洗剤できれいに洗う。するとまた汚す。

  どうして、こんなに汚すのか。それはきれいにしてあると、小獣類というのは落ち着かないのである。自分のにおいがまわりにないと、イライラしてしまって、しまいにはダウンしてしまう。新人がきれいにしようとしても、それは動物にとってはハタ迷惑なだけである。

  群れで生活しているものを単独で飼うとか、またその逆もできるだけ避けたほうがいい。その動物がナチュラルな状態でどうやって生活して、どういう生き方をしているか、そのことをよく知って飼育しないと、かれらの精神生活を守ってやることはできない。

  ところで、みなさんは意外に思われるかもしれないが、ゴリラはあの体、顔つきでいながら、実は音に対して敏感である。人間がどうも思わないような小さな音に対しても、時としておびえることがある。とくに腹に響くような音は嫌いなようだ。

  いやな音を絶えず聞かされると、すぐ下痢を起こす。精神不安定になって騒ぎ出す。あんな大雑把な、ふてぶてしい顔をしていながら、どうしてこんななに神経が細かいのだろうと不思議なくらいである。

  音に対してナイーブなゴリラを飼育する場合、その感受性をどうやってクリアしてやるかというこどが大事になる。すべての音をなくしてしまうことはできない。だから、音に慣らしてやるようにする。いつもラジオの音を聞かせてやる。すると、しだいに驚かなくなる。そういう配慮がゴリラには必要である。

  長い間、動物たちと暮らしてきて、最近痛切に思うことがある。動物が生きていくうえで一番大切なこと、それは精神生活なのではないだろうか。

  そのことに恥ずかしながら、若いときは全然気がつかなかった。

  それでは健康に飼育することのバロメーターは何か。それは動物が元気に成長し、そして繁殖していく。また、その子どもが丈夫な赤ちゃんを産む。そういう成果が出てくることである。

  良い成果はどうやったら出てくるか。単に物理的な、暑いとか寒いとか、室温をどうする、あるいは何を食べさせるか、といったことではない。動物園の人間はどうしても、動物をどうやったら上手に飼えるか、技術的なことばかりを考えてしまう。動物を飼うということの一番の難しさ、それはかれらの心身の健康をどう保ってやれるかである。

  いくら子どもをよく産むとか、人によくなつくといっても、精神生活をきちんとしてやらなければ、その動物にとって、不幸なことになる。完璧に飼育していても、その一つだけですべてがパーになるような気がする。

  檻の中にゴリラを入れて、ただ見せればそれでいいということにはならない。それではゴリラの心はどうなりますか。ゴリラの気持ちはゴリラにしか分からないのである。
  

問 「精神生活」がきちんとしているとは、どのように暮らすことですか。

ア その動物の本来の生き方に近い状態で、落ち着いた気持ちで暮らすこと。
イ 丁度良い室温に保たれた檻で、食べ物をたくさん与えられて暮らすこと。
ウ たくさんの人とふれあって、人間たちと心を通わせて暮らすこと。
エ 技術のすぐれた動物園で飼育され、子どもをたくさん産んで暮らすこと。


 
 子どもの読書に付き合うのも興味深いものです。

 しかし、わたし達の暮らしを見ると、少子化対策は日本の緊急課題ですね。健康な人は誰でも子孫を残したいでしょう。それが実現されない社会は精神的病人を増やし続けているような気がしますわ〜。