解散はいつになる

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消費増税法成立 解散時期が焦点
8月10日 23時50分


消費税率引き上げ法など、社会保障と税の一体改革に関連する法律は、10日の参議院本会議で採決が行われ、民主党自民党公明党などの賛成多数で、可決・成立しました。
野田総理大臣が、衆議院の早期解散を求める自民党の要求を受けて採決に先だち、自民党の谷垣総裁と公明党の山口代表に、法案の成立後、「近いうちに国民に信を問う」と約束したことで、今後の焦点は、衆議院の解散時期になります。
野田総理大臣は、いかなる解散戦略を描いていくのか。
政治部・官邸クラブの山崎記者が解説します。

歴史に残る審議


「ご協力ありがとうございました」。
社会保障と税の一体改革に関連する法律の成立後、野田総理大臣は国会内で、賛成した民主党自民党公明党など、各党を回りました。
法案の委員会審議の時間は、衆議院は約130時間で戦後歴代2位、参議院は約85時間で歴代4位。
文字どおり歴史に残る審議を乗り越えた野田総理大臣。しかし、あいさつ回りの最中、その表情に安堵の色はなく、今後も続く厳しい政権運営に気を引き締め直しているように見えました。

最後まで難航
「今国会の成立に政治生命をかける」というみずからの「公約」を果たした形の野田総理大臣ですが、法案の成立は、最後まで予断を許しませんでした。
法案は、民主・自民・公明の3党の修正合意を経て衆議院を通過したため、当初、参議院での可決・成立は問題ないとみられていました。
しかし先週になって、野田総理大臣が来年度予算案の編成に言及したことなどで、自民党は「解散する気がない」と受け止め、法案の成立より今国会中の解散の確約を求める方針に転換。一気に成立の見通しが不透明になりました。



野田総理大臣は「総理大臣の専権事項として、解散の時期を明示することはできない」という姿勢は最後まで崩しませんでした。
一方で自民党の谷垣総裁と直接、何度も電話でやりとりし、法案の成立に向けた一致点を模索しました。
そして最終的に、公明党の山口代表も加えた3党の党首で、法案の成立後「近いうちに国民に信を問う」ことでなんとか合意し、成立にこぎつけました。

解散時期が最大の焦点に


社会保障と税の一体改革に関連する法律の成立を受けて今後の焦点は、野田総理大臣が、いつ、衆議院の解散・総選挙に踏み切るかです。
野田総理大臣が約束した「近いうちに」とは、いつなのか。
野田総理大臣は、「それ以上でも以下でもない」として具体的な言及を避けるなか、与野党では、さまざまな受け止めが出ています。

自民党は「常識的に考えれば『近いうちに』とは、数週間以内だ」として、9月8日までの今の国会の会期中の解散を求めています。
仮に野田総理大臣が、今国会中に解散に踏み切らない場合は、参議院野田総理大臣に対する問責決議案を提出することも検討しています。

これに対し民主党では「各種の世論調査で、野田政権や民主党の支持率が低迷しているなかで選挙をやったら、民主党は惨敗する」などとして、早期の解散・総選挙に反対する声が大勢で、「今国会での解散はありえない」という見方が大半です。
さらには「秋の臨時国会では解散があるだろう」、「来年度予算案を編成したうえで解散すべきだ」、なかには「任期満了で、参議院とダブル選挙を行った方がいい」といった意見すら出ています。

何を「戦う材料」にするか?


解散時期を巡って野田総理大臣の判断に大きな影響を与えそうなのが、「選挙を戦う材料」です。
野田総理大臣は、消費税率引き上げ法案の提出に向けた調整が本格的に始まった去年12月、みずからに近い議員に対し「選挙の争点が消費増税の是非だけになると、とても選挙は戦えない」と話していました。
社会保障と税の一体改革の実現という成果のほかに、「選挙で訴える実績、争点をつくる必要がある」というのが、野田総理大臣の心境でしょう。

身を切る改革
では具体的に、何を「選挙を戦う材料」にすべきか。
民主党内で一番多く聞かれるのが、「消費増税に対する国民の理解を得るために、みずから身を切る改革をやり抜き、その成果を訴えるべきだ」という意見です。
「身を切る改革」の象徴が、衆議院議員の定数削減です。
民主党は、衆議院のいわゆる「1票の格差」の是正に加え、定数を45削減することを盛り込んだ法案を国会に提出しています。
しかし選挙制度改革を巡っては各党の意見が対立し、法案成立のメドはたっていません。

野田総理大臣は「1票の格差の是正と定数削減は、包括的に一刻も早くやらなければならない」として、今の国会で成立させることを目指しています。
民主党内からは、「野党側の反対でいつまでも法案が成立しない場合は、選挙で野党側の対応の是非を問えばいい」という声が出ています。

脱原発
もう1つが「脱原発」です。
政府は原発事故を受けた新たなエネルギー政策の検討を進めています。
野田総理大臣は、2030年時点の全発電量に占める原発の比率について、国民の声を聞くために全国各地で開いた意見聴取会で、「ゼロ」にすべきだという意見が多かったことを受けて、「ゼロ」にする場合の課題整理と克服策の検討を行うよう、関係閣僚に指示しています。
原発の運転再開で野田総理大臣が批判を浴びるなか、民主党内では「将来は、原発を確実に『ゼロ』にするというメッセージを明確に出すことができれば、選挙で大きなアピールになる」という期待が出ています。

「嘘」をつかない?


衆議院の解散は総理大臣だけに与えられた専権事項であり、歴代総理大臣がそうしてきたように、野田総理大臣も、みずからの政権にとって一番有利な時期に選挙を行いたいと考えているはずです。
しかし「近いうちに国民の信を問う」とした3党の党首の合意によって、選択する時期の幅に制限が加わったのは間違いありません。
永田町では、「総理大臣は、解散と公定歩合に関することだけは嘘をついていい」ということがよく言われます。ただ野田総理大臣に近い議員らは、「野田総理大臣は、嘘をついて、開き直るようなタイプではない」と口をそろえます。
野田総理大臣が、「近いうちに国民に信を問う」と約束した、自民党の谷垣総裁や公明党の山口代表との信頼関係を保ちながら、いかなる解散戦略を打ち出していくのか。
政局は、これからも、気の抜けない緊迫した状況が続きます。