不都合な真実を疑う

映画「不都合な真実の」アル・ゴア氏がノーベル賞を受賞しましたが、映画や著書の中には、事実と異なる点が多くあるようです。
そのいくつかは、最近の研究成果によるものですが、中には、意図的に間違いを喧伝したと思われる節も多くあるようです。
月刊「現代思想」10月号に掲載された、「伊藤公紀 池田清彦討議 冷静に温暖化を考える」では、それらの事実と相違する点について言及されていますが、そこからいくつか引用します。

キリマンジャロでは万年雪が融ける理由>
伊藤
 ゴアの 『不都合な真実』 には「不都合な真実」が、すなわちおかしいところがたくさんあります。(中略)
 例えば、キリマンジャロでは万年雪がどんどん減っている、という記述が出てきます。確かに雪は減っている。しかしこれは最近まで分からなかったのですが、溶けたのではないのですね。昇華、つまり周りからどんどん蒸発してしまったのです。蒸発する理由は、当然周りの湿度が低いからですが、どうして湿度が低くなったかというと、はっきりは分からないのですが、もしかすると周りの木を伐ってしまったからかもしれません。ですから、気温が原因で溶けたのではないということです。
<二〇〇三年のヨーロッパの熱波>
伊藤
 それから、熱波発生の理由、というのも出てきます。ヨーロッパで九三年に熱波が発生しました。当時の気温が通常とどれくらい違ったか、つまりアノマリーを調べたデータがありますが、ヨーロッパでは二〇〇三年の六月から八月が凄く暑かった。フランスではたくさん死者が出たりもしました。(中略)
 ところが面白いことに、その近所(ロシア西部など) は低くなっているのです。アフリカも低い。ですから、ある程度広い範囲で均してしまうとそうでもないはずなんです。地理的な不均一性が出たというのが原因の一つなんですね。サハラ砂漠の熱い大気がヨーロッパヘ流れたことが原因かも知れません。(中略)
二〇〇三年は春に雨が少なかったというんです。雨が少ないと蒸発熱による冷却が減りますので、それが夏の熱波の大きな原因になったというものです。こういう原因を探るというのは是非ともやらなくてはなりません。一年経つと分かることが全然違うんですね。
<気温測定自身にも問題がある>
伊藤
 アメリカでも気象観測所の気温は怪しいのではないかという類の調査はかなりあります。日本でも東北大学名誉教授の近藤純正先生が日本全国で調査をして、ホームページに掲載しています。これを見ると、気象庁が使っている一七標準地点のデータも怪しい。日本の中であてになるのは三地点しかない。北海道の寿都と東北の宮古と四国の室戸岬だけは観測所がちゃんとした気温を測れるように保たれていますが、他のところは駄目なんです。(中略)
昔は周辺何十メートルか芝生にして、百葉箱に塗るペイントもしっかりしたものを使っていたのですが、だんだんそうもいかなくなってくる。例えばその土地の側に建物が建っても気象庁は文句が言えない。細かい話ですが、例えばビニールハウスぐらいができても違ってくるらしいです。風が弱くなって、気温の上昇に効くらしい。(中略)
しかも、そういうことというのは観測所の履歴に書かれていないんです。世界各地もそうで、それで簡単に〇・五−一度くらい違うらしいですね。〇・二度とか〇・三度の誤差は、一〇〇年先に外挿すること二度とか三度とかになってしまう。誤差はどうしても出ているのです。しかし、こういうものは新聞には出ないですからね。
<チャド湖の旱魃
伊藤
 チャド湖はアフリカにある浅い湖ですが、この水が相当減っていることは間違いありません。ところが、この本にはここ数十年のことしか書いていないんです。チャド湖は長い歴史をもっていて、何回も干上がったり小さくなったりを繰り返しているんですね。そういうことは書いていない。しかもその原因は灌漑などが大きいのです。
<気候変動には太陽の時期の影響が強い>
伊藤
 本当に最近になって私自身が見つけたことなのですが、aaインデックスの一二月から一月の平均が、北欧やロシア西部などのかなり広い範囲の、その後の季節の気温とよく対応しているんです。相関はかなり高くて、この例(図1) では〇・六七くらいあります。これなら因果関係がはっきりあると言えそうです。
<北極圏の変動の理由>
伊藤
 ゴアは伝統的・典型的に、氷は白いので、溶けると太陽光の反射率(アルベド)が減って、それでもっと温まる、という議論をしていますが、どうもそれはあまり効いていない。最近言われているのが、例えば、暖かい海水がグリーンランド海などから入ってきたことが一番大きいということです。オーロラ研究の権威であるアラスカ大学の赤祖父俊一さんもそう言われています。それから日本の海洋研究開発機構(1AMSTEC)も同様の研究をしています。(中略)
中国やバングラディッシュなどから煤が飛んできて、それがくっついてアルベドを下げるという仮説もある。ヒマラヤなどでもそういう傾向があるらしいです。これは人為的な話ですが、人為的な話の中でもかなり複雑なのです。
<温暖化でマラリアが増えるのか?>
伊藤
 実はIPCCの第三次報告書でも問題が起きました。蚊の媒介する病気の専門家がアメリカにいるのですが、その人が怒って報告書の執筆をやめてしまったんです。何故かと言うと、IPCCでは温暖化の影響でマラリアの感染率が増えるとか、そういうふうに結論づけたかったらしいのです。しかしそうではないという報告もあるんです。(中略)
最近アフリカでマラリアが流行ったのですが、その原因を探ったところ、気候変動に関係したことなんて一つもなかったと報告されています。マラリアが多発しているところに人間が移住せざるを得なくなったとか、蚊が殺虫剤に強くなったとか、そういったことが原因なのです。
<ツバルの海面上昇>
伊藤
 海面上昇の傾向も問題視されていますが、これも大変面白い。ツバルもそうですが、社会的な要因が大きいのです。もともと海面は何メートルも変わるものですから、一〇−二〇センチメートル変わったからといっても水没が起こるわけではない。そこで重要なのは、平均気温の話もそうですが、平均を取って出した傾向と、短い期間での変動には関係ないということです。本当に重要なのは短い期間での海面の高さの変動です。それからもう一つ大きいのは、やはり低地低地という方向にどうしても開発が進むことです。今まで人が住まなかったところに住まわせるとか。(中略)
ツバルでも、やはり低地開発は多いらしいです。要するに、行政の失敗がある。
<温暖化問題は国際的な駆け引き>
池田
 環境問題は結局綱引きなんですよね。どこの国も自分たちに一番いいようなやり方を決めて、主導権をとりたい。中心になっているにはEUアメリカ、そしてロシアでしょう。京都議定書EUがうまくやって、アメリカはそこから降りた。EUなんて削減目標がすでに達成されているようなところで議論を進めているわけですから、日本だけが損をしている。ロシアは日本が排出権を買ってくれる見通しが立ったから議論に乗ってきた。日本は議長国であったから批准をしなければいけなかった。まあ世界中からいいようにダマされたわけです。そのことに対して、日本の国民はほとんど分かっていないでしょう。だからアメリカが悪いとか、EUが偉いという話になる。来年は洞爺湖でサミットが開かれますが、トップの政治家もそういった事情がよく分かっているとも思われないから、きちんとした戦略も立てられない。
 伊藤
 なぜCO2がここまでクローズアップされるかと言えば、分かりやすいからでしょう。ほぼ均質に広がりますし、透明ですし、物理化学的な性質もよく分かっていますから、計算に乗りやすい。しかしよく分かっているというだけの話なのです。ほかのことはよく分からない。エアロゾルなどはどこに行ったかもよく分からないし、どのくらい出ているのかもよく分からないし、影響も計算しづらい。物理化学的な性質にしても、光を反射するものもあれば吸収するものもあって、非常に複雑です。分からないことはとりあえず放っておいて、分かることだけを言うのは学問的には正しい行為ですが、それを政策に結びつけるのは無理なことです。