処分場裁判

tomonee2007-11-29

http://mytown.asahi.com/chiba/news.php?k_id=12000000711270001
初の高裁判決に注目/富津 
2007年11月27日


処分場の計画地。谷を産業廃棄物で埋め立てる=富津市田倉で

 富津市田倉に計画されている産業廃棄物処分場の建設をめぐり、地元住民が「飲料水の汚染で健康被害を受ける」として、事業者を相手取り建設差し止めを求めた裁判の控訴審判決が28日、東京高裁で言い渡される。一審・千葉地裁木更津支部は、健康被害の危険性を認めて差し止めを命じた。原告弁護団によると、安定型産廃処分場の建設差し止めをめぐる判決は高裁レベルでは全国で初めてという。


 裁判の主な争点は、(1)人体に影響を及ぼす有害物質が混ざるおそれがあるか(2)有害物質によって住民の生活が脅かされるか――にあった。


 有害物質の混入の可能性について一審判決はまず、「法令で混入しないよう規制されてはいるが、現実には最終処分場などでの分別能力による」と指摘。大型車両約9万8千台にも及ぶ廃棄物の中から従業員が手作業で有害物質を取り除くことは困難と述べ、「有害物質の混入は避けられない」と判断した。


 そのうえで判決は、原告のうち飲料水を地下水に頼っている住民について、「飲料水の汚染という被害を受け、生命や健康を害する危険性がある」と判断。「汚染水が流出した場合の被害回復の困難さと深刻さは予測し難いものがあり、予定地は処分場の立地として不適切」とし、差し止めの必要性を認めた。


 こうした一審の判断を高裁がどう評価するのか、注目される。


     ◇


 JR内房線上総湊駅から約5キロ東へ行き、林道を進むと山谷が現れる。計画では、谷の部分を利用し、産廃を埋めるという。ふもとではわき水が沢をつくる。


 林道の入り口に住み、原告の一人でもある農業、安田貞夫さん(66)は「しぼり水と呼び、このあたりでは田んぼなどに使ってきた」と話す。上水道が通っていないため、飲み水には井戸水を使用している。


 処分場は産廃処理業者「浅野商事」(木更津市・大野靖明社長)が計画。87年、県に処分場事前協議書が出された。約4・6ヘクタールに建築廃材、廃プラスチック、コンクリート片など「安定5品目」約97万立方メートルを埋め立てるという。事前協議終了後の95年、同社は県に設置許可申請をした。


 地元の富津市議会では98年6月、処分場建設に反対する請願が採択された。一方、県は98年12月、富津市と環境保全協定を結ぶ、地下水の水質悪化が起きないようにすることなど10項目を条件に設置を許可した。


 ところが、同社が協定を結ばないまま建設工事に着手したため、県は99年11月に許可を取り消した。これに対して、業者が行政不服審査請求をした。当時の厚生省は00年3月、県の取り消し処分を取り消す裁決を出し、工事は01年2月に始まった。


 しかし、原告が建設差し止めを求める仮処分を申し立て、千葉地裁が02年2月、差し止めを命じる決定を出し、建設工事は中断されている。


 この裁判は02年5月に住民ら142人が千葉地裁木更津支部に提訴。一審判決は05年5月に言い渡され、原告、被告双方が控訴した。


◆県の許可による安定型処分場設置計画について、はてなー



安定型処分場は、「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」に基づいて設置されるわけですが、素掘りの穴を掘り、いわゆる安定5品目といわれる廃棄物(廃プラスチック類、ゴムくず、金属くず、ガラスくず、工作物の除去コンクリート等)を埋め立てるという極めて原始的な構造になっています。

05年5月、富津市田倉に建設予定の安定型処分場に対する、住民による工事差し止めの仮処分申請では、住民が勝訴しました。その際、地裁木更津支部の判決では、安定5品目自体の危険性は認めなかったものの、その中にはいろいろな混入物が入り、「有害物質が混入することは不可避、分別は不可能」と断定しております。これまで全国各地の安定型最終処分場で汚染事故が発生しており、硫化水素による死亡事故も報告されていますが、そうした現実にふまえた画期的な判決でした。

成田市でも、芝と津富浦にまたがる処分場で有害物質による汚染が確認されています。
 1989年(昭和64年)には地中で廃棄物からメタンガスが発生し、農作物に影響を与えました。また、2000年(平成12年度)の「千葉県環境白書」では硫化水素の発生が確認されています。こうしたことは、明らかに安定5品目にその他の物質が混入し環境を汚染することを証明したものといえるでしょう。

木更津支部の判決を含め、いま、安定型最終処分場をめぐっては全国各地で、住民側の勝訴や仮処分決定がされる例が増えつつあります。
 しかし、「有害物質の混入は不可避、分別は不可能」という裁判所の判断が相次ぐ中でも、国や県は正面から受け止めようとせず、次々と安定型処分場の申請を容認しています。

安定型最終処分場が計画されるような場所の周辺には、山林や水田が広がっており、住民は飲料水を井戸など地下水に頼らざるをえない地域です。もし地下水が汚染されたら、住民の健康と暮らしに取り返しのつかない被害を及ぼしかねません。また、地下水の汚染はその地域だけの問題ではなく、水脈(帯水層)を通して更に下流の広範な地域の井戸水を汚染することも予想されます。
 こうした環境汚染問題に抜本的な対応をするには、管理型最終処分場も併せて、厳しい立地条件の設定など法改正が必要だと思います。


房総通信http://www005.upp.so-net.ne.jp/boso/tusin01.htm
「山砂採取と生物多様性

 ・基調報告「千葉県の山砂採取と自然環境への影響」
    …………佐久間充氏(前女子栄養大学教授、元東京大学助手)
 ・報告「市原市栢橋地区の大規模残土処分場・山砂採取」
    …………山本友子氏(前県議、市民ネット)
 


 佐久間さんは、『ああダンプ街道』(岩波新書)と『山が消えた〜残土・産廃戦争』(同)の著者です。
 『ああダンプ街道』は、土砂採取で千葉県君津市の丘陵が次々と削られ、1日4000台も通るダンプカーが沿道住民に騒音、振動、交通災害、粉じんによる健康破壊をひき起こしている実態を、精力的な調査によって初めて明らかにした本です。全国的に大きな反響を巻き起こし、文部省の高等学校作文コンクールの課題図書にも選ばれました。この本は10万部売れたそうです。
 佐久間さんは、そうしたすさまじい実態を映像でわかりやすく話してくれました。羽田空港の第3次拡張工事で再び君津地域の山が削られることになり、その影響が危惧されることも、です。
 以下は、佐久間さんの報告要旨です。


■山砂採取で山が消え、その埋め合わせにゴミの山々が出現


 「千葉県中西部は、わが国の経済発展の基幹資材である山砂を、この40年間に14億トンも首都圏に供給した。その結果、約2000ヘクタールの採取跡地が出現した。その跡地へ、山砂を搬出したのと逆の方向で、残土や産廃が運び込まれている。つまり、山砂採取で数々の“山が消えた”埋め合わせに、“平成新山”というゴミの山々が出現しているということだ。渓谷や谷津田も絶好の捨て場となり、そこからは各種の有害物質が検出されつつある」



■ダンプ公害研究をやればやるほど出世コースから外れた


 「かつて、私の出身地である君津の方からダンプ公害の調査をやって欲しいという注文が繰り返しあった。市会議員をしている友人からは、《お前の田舎はとんでもないことになっている。こんなに困っているのだから学問になるはずだ》といわれた。兄貴からは、《東京大学はほんとうにダメだ、税金の無駄使いしている》と批判された」

 「そこで現場を見に行った。山が削られてひどいものだった。これはすごい現象だ。東京のビルのために、交通事故で人が死んでいる。山を削る作業ではブルドーザーごと採掘現場から落ちて毎年死者がでていた。そうした実態を次々と論文で発表した。私が調査を始めてからは、事故死がゼロになった。交通事故も減った。粉塵予防の散水車も走らせるようになった。公害対策委員になったが、新しい山砂採取計画が私のいないところで決められたので、辞めた。委員会は業者の味方になっていた」

 「宇井純は私の実家(君津市内)にも来て、あちこち歩いてくれた。関西の公衆衛生の学者はみんな来てくれたのに、東京大学から来たのは宇井純1人だった。ダンプ公害研究をやればやるほど出世コースから外れた。私は、東京大学ではとうとう教授にさせてもらえず、助手のまま据え置かれた」



■傍観者がいる限り被害者は救われない


 「研究者は客観的データを出すことが任務だ。騒音測定、粉塵測定をつづけたら、最初はアカといわれた。粉塵調査を24時間やった。粉塵の成分分析で珪酸(けいさん)分が多いことが分かった。人体への影響が多い物質で、健康診断をやったほうがよいと言われた。胸部レントゲン調査をやったら塵肺がでた。その結果を記者会見で発表したら、えらい騒ぎになった」

 「ダンプ運転手の飯場に泊まったり、ダンプに同乗したりもした。つきあってみると、ダンプの運転手たちはとてもいい人たちだった。しかし、その労働実態は悲惨だった。経営もたいへんだ。ダンプ運転手を60人ぐらい調査したが、あとでそのうち3人が自殺した。すごいものだ。やっぱり学者は行動しなければダメだと感じた」

 「何ごとも自分で見なくてはいけない。自分で見てどっちにも付かずにデータを出す。東京のコンクリート文明を作る材料(山砂)を出すのに、地方の住民がこんなに苦しむ必要はない。なかなか通じなかったが本をだすことで通じた。人間は他人の不幸は耐えられる。困るという人の方が悪者に見られる。これはおかしい。大多数の受益者はそれを理解しようとしなければいけない。傍観者がいる限り被害者は救われない」

 「『ああダンプ街道』(岩波新書)の影響力はすごかった。朝日新聞などが年間のベスト3冊に選んだ。宇沢弘文は世界の20冊の中に入れてくれた。」



■なぜ千葉県だけが採取されるのか
  〜神奈川県は20年以上前から不許可〜


 「100万年前、関東の奥地の山から流れた土砂が堆積し、それが隆起したのが千葉の山砂である。一辺100メートルの立方体で100万立方メートル。これがこれまでに800個分持ち出されている。昭和59年頃は600個くらいだった。今は800個、羽田空港の第3期拡張でさらに30個くらい持ち出すといわれる」

 「それだけ持ち出すと、房総半島は持ち上がる(隆起する)のではないか。鹿野山の測候所が約10センチ持ち上がっているということを、当時の国土地理院地殻調査部長(地震予報官)が論文に書いた。山を大量に削ったことによって地殻が隆起したというものだった。私は『ああダンプ街道』で、山砂採取で土地が隆起するということを冗談っぽく書いたが、それがすでに論文で発表されていた。そのときは10センチ隆起だったが、今では20センチくらいになっているかもしれない、とその人は言っていた。山を削ると地殻が隆起する。神戸地震は六甲山を削ったことが原因という説もある」

 「自然環境の保全羽田空港第3次拡張をはかりにかけるという気配すら感じられない。東京湾は限界に達している、と漁業者が言っている」

 「山砂採取の収入は大変なものだ。しかし地元への還元は少ない」

 「なぜ千葉県だけが土砂を採取されるのか。それは千葉県がなめられているからだ。対岸の神奈川県は20年以上前から採取を認めていない。それは、民度の違いでもある。堂本知事は完全に負けている。山砂採取は厳しく規制すべきだ」



■もうこれ以上掘って欲しくない


 「千葉県の君津地域は、すでに山がいくつも消えてしまった。前述のように地殻も上がった。このように土砂採取の影響ははかりしれない。地域の自然の荒廃は子どもの心の荒廃にもなる。過去の採取では、土砂運搬などで子供や大人が何人も死んでいる。千葉だからいくらでも掘ってよいというのはやめてもらいたい。もうこれ以上は掘って欲しくない」

 「堂本さんが知事になったから大丈夫だと思ったら、そうでもない。言いにくいとか、いろいろあるのだろう」

 「結局は、住民運動でブレーキをかけるしかない」

 「かけがえのない自然がどんどんなくなっていく。それは市民意識が低いからでもある。山砂採取業者が県議会議長になったりするように、政治構造の問題でもある。しかし、この頃は新住民が多くなり、そういう政治構造も変わりつつある」